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エスプレッソ歴史物語


第7話 クレマの発見~ピストン式マシンの副産物~


 ピストン式マシンの発明により、圧力をかけて短時間に抽出するというエスプレッソ・コーヒーが更に本格的なものになりましたが、その際に予想外の現象が起きました。抽出されたコーヒーの表面にはクリーム状の濃密な泡が浮かんでいたのです。

 当時の記録がないので、ここからは私(バリスタ)の推測ですが、試作品のピストン式マシンで初めてこの泡を見たとき、ガジア氏やスタッフは、圧力が高すぎて「あく」が出てしまった、失敗作だと思ったことでしょう。しかし、試しに飲んでみて、その濃厚で深みのある味わいに驚いたはずです。この泡自体は必ずしも美味しいものではないし、この泡が何であるかはよく分からないものの、この泡に覆われたエスプレッソがこれまでにない美味しさであることは間違いないし、新発明のこのマシンでしかこの濃密な泡は出来ないことも間違いない。…よし、そうであれば、このクリーム状の濃密な泡を、新発明のこのマシンの特長として宣伝文句にしよう!

 以上は私の推測でしたが、最終的に、ガジア社から発売されたレバーピストン式のエスプレッソ・マシンには「天然クリーム・コーヒー(Crema Caffe Naturale)」というキャッチ・コピーが刻まれました。エスプレッソ好きの客に対して「レバー式ピストンの採用により湯温管理の下で高圧力の抽出が可能に…」などと能書きを垂れるのではなく、「今度のマシンではコーヒー自身のクリームが出て来るんだ」と訴えかけるのは、意味不明ですがインパクトがあります。客としても、試しに飲んでみると確かに美味しいものですから、このマシンはたちまち評判となりました。このように、ガジア氏はレバーピストン式マシンの生みの親であるとともに「クレマ」の生みの親であるとも言えるでしょう。

(日本で「クレマ」と言えばエスプレッソに浮かぶ泡のことのみを意味して用いられますが、イタリア語の「クレマ」は英語の「クリーム」を意味する言葉であり、コーヒーに入れる乳製品のクリームはもちろん、クリーム状のものは全てクレマです。)

 ガジア氏のレバーピストン式マシンの発明により、エスプレッソの抽出における圧力の微妙な調整が可能になりました。また、エスプレッソのクレマの存在が美味いエスプレッソかどうかの目安として意識されるようになったこともあり、各店のバリスタ(エスプレッソを入れる人)の職人魂が燃え上がります。戦後のイタリアを中心としたカフェやバールでは、バリスタのパフォーマンスが注目されるようになり、バリスタの地位向上をもたらしました。

 しかし、その一方で、エスプレッソの普及に腕の立つバリスタの数が追いつかなくなり、非熟練者でもより多くの客に安定した品質のエスプレッソを提供することのできるマシンを求める声が多くなってきました。こうしてエスプレッソマシンに対する自動化と高速化の努力が始まったのです。


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