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エスプレッソ歴史物語


第4話 エスプレッソの語源


 ベゼラ氏が自らの考案した機械により抽出されるコーヒーをカフェ・エスプレッソ(エスプレッソ・コーヒー)と称していたことは記録に残っていますが、カフェ・エスプレッソという単語を歴史上誰が初めて使用したのかははっきりしていません。これまでも紹介してきたように、人々は何もエスプレッソを作ろうと努力してきた訳ではなく、コーヒーの新たな抽出方法を求めて試行錯誤してきた結果、ある時点で、その成果物がエスプレッソと呼ばれるようになったのでしょう。

 そのため、エスプレッソという単語の語源についても「急行、急速」を意味するという説と「特別に、あなたのために」を意味するという説に分かれています。日本ではもっぱら「急行、急速」を意味するという説明のみがなされるのが普通ですが、もしかしたら単に「特別に、あなたのために」を意味するという説が何を意味しているのか理解されていないだけではないでしょうか。

 日本の学校では express という英単語には「表現する」という意味(動詞)と「急行」という意味(名詞)があるように習い、私も二つの全く異なる意味を持つ単語であるかのように覚えていましたが、改めて手元の英和辞典を開いてみると、express という単語には「特に明示した」あるいは「特殊な」という意味(形容詞)があり、expressly というと「特別に」あるいは「わざわざ」という意味(副詞)があります。そこで coffee expressly for you(あなたのためにいれたコーヒー)が語源だというのが「特別に、あなたのために」を意味するという説です。(便宜上英単語で説明しましたが、フランス語・イタリア語でも事情は同様です。)

 1901年にベゼラが考案し、1905年にパボーニが世に送り出した機械は、客の求めに応じて一杯ずつコーヒーを抽出する方式で一世を風靡しました。その意味では、エスプレッソの語源が「特別に、あなたのために」を意味するという説には十分な根拠があります。

 しかし、カフェ・エスプレッソという単語が「急行、急速」のニュアンスとともに普及していったのも事実です。例えばイタリアの Victoria Arduino 社が1922年に作成した有名なポスターには、「LA "VICTORIA ARDUINO" PER CAFFE ESPRESSO(カフェ・エスプレッソには Victoria Arduino を)」という宣伝文句とともに、蒸気機関車の客車デッキから身を乗り出した乗客が同社の機械から抽出されるコーヒーに手を伸ばしている絵が描かれています。このポスターは、カフェ・エスプレッソという単語が当時既に一般的になっていたことを示すと同時に、蒸気機関車のイメージを同社のエスプレッソ・マシンのイメージを重ね合わせてアピールしている様子がうかがえます。

 エスプレッソの起源及び語源についてはっきりしない点も残りますが、ここでは、1901年にベゼラが考案し、1905年にパボーニが世に送り出した機械以降を「エスプレッソ・マシン」と呼ぶことにします。


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