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エッセイ・エスプレッソ


第33話 エスプレッソの落ち腐れ


 エスプレッソの鮮度を重視する人は、カップは厚手で余熱したものを使ったり、抽出したら砂糖をかきまぜる間もなく一気に飲んだり、ミルクの泡立てと抽出のどちらを先にするか考えたりと、いろいろ工夫している。しかし、そこまで工夫を凝らすのであれば、エスプレッソにとって一番無防備なのは、マシンからカップに落ちる瞬間かもしれない。

 理想的な抽出の姿はよく「ハチミツの垂れる速度」あるいは「ネズミのしっぽのように」と表現されるが、一旦諸条件が固まった後は、ネズミのしっぽに見とれるよりも、できるだけマシンにカップを近づけて空気への露出を最小限にとどめる方が鮮度の観点からは望ましい。

 マシンの中には、小さなカップに抽出する時は抽出口を引き出してカップに近づけることができる機種もあるが、外からは見えなくなっても、長くなった抽出口の中をエスプレッソが落ちている状況は同じである。カップの受け台が上にせりあがる機種もあるが国内ではほとんど見かけない。

 実際はそれほど神経質になる必要はないと思うが、もし抽出口とカップの距離が大きく離れているのが気になる人は、受け台に適当な高さの箱を置き、その上にカップを置くのがよい。

 …しかし、以上の話は、いかにも理屈っぽい。エスプレッソの鮮度を重視する人には上記の説明でもよいが、まずは、エスプレッソは鮮度が大切だということを、簡単に分かりやすく説明したい。

 「エスプレッソの寿命は10秒」という人もいるが、これでは「10秒で飲まないと駄目なのか」という誤解と不安を招いてしまう。数字は使わず、できればユーモアをこめて表現したい。…そう思って最近、

「鯖の生き腐れ、エスプレッソの落ち腐れ」

というキャッチフレーズを使ってみているのだが、如何だろうか。

*     *     *

「鯖の生き腐れ」
 鯖は漁獲後、甲板の上で暴れる時から劣化が始まっている。魚の中でも特に鯖は劣化が進むのが早い。さすがに「生きたまま腐る」というのは大袈裟だが、そのくらいの気持ちで鮮度を大切にして取り扱っていれば、美味しい鯖を楽しく味わうことができる。

「エスプレッソの落ち腐れ」
 エスプレッソは抽出後、マシンからカップに落ちる時から劣化が始まっている。コーヒーの中でも特にエスプレッソは劣化が進むのが早い。さすがに「落ちながら腐る」というのは大袈裟だが、そのくらいの気持ちで鮮度を大切にして取り扱っていれば、美味しいエスプレッソを楽しく味わうことができる。


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