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エッセイ・エスプレッソ


第32話 「おいしい水」と「マシンに優しい水」


 学生の頃、アメリカの空港の売店で店員に「ミネラルウォーター」と注文したら炭酸水が出てきて困ったことがある。その店員によれば、普通の飲み水は「ナチュラルウォーター」あるいは「スプリングウォーター」と言うのだそうな。

 炭酸が含まれているかどうかはともかく、「ミネラル」と言えば「カルシウム、マグネシウム等の有機物」のことであり、「ミネラルウォーター」と言えばミネラルを豊富に含んだ水(いわゆる硬水)を意味するのが本来の用語法である。しかし日本では、市販されているいわゆる「おいしい水」を一般的に「ミネラルウォーター」と呼んでいる。その中には、○○天然水のような軟水もあれば、□□海洋深層水のような硬水もある。エスプレッソマシンに水道水でなくミネラルウォーターを入れているという人も多いが、それが軟水なのか硬水なのか気にせずに使っている人も多い。

 残留塩素がないことは「おいしい水」の条件として衆目の一致するところであるが、ミネラルの多さ(軟水か硬水か)とおいしさの関係は好みの問題である。全くミネラルの含まれない蒸留水はおいしくないと感じる人も多い。コーヒーには軟水の方が適しているといわれるが、ある程度硬水の方がコクがあっておいしいという人もいる。これも好みの問題である。

 エスプレッソについては「マシンに優しい水」という、もう一つの関心事項がある。特にポンプ式のマシンは細かな配管があるので、汚れやサビ等の不純物はもちろん、長期間の使用によるカルシウム等の沈着も故障の原因となる。定期的にクエン酸等で洗浄すれば良いとはいえ、定期的な手入れにまで気が回りにくい一般家庭においては、よりマシンに優しい軟水を使う方が無難である。敢えて硬水を使うという人は定期的な手入れに気を配ってほしい。

 「エスプレッソマシンへのカルシウム沈着が気になるので浄水器を買いたい」という人も多いが、残留塩素及び不純物を除去するために浄水器はお勧めであるものの、カルシウム沈着を阻止してくれる訳ではない。最近は家庭用の浄水器が普及しており、水道水の不純物や残留塩素はもちろん、上位機種であれば微量な農薬成分や鉛などの重金属も除去してくれるが、カルシウム等のミネラルは家庭用の浄水器(活性炭や中空糸膜)では除去されない。ミネラルは飲み水の旨味成分と考えられているので、浄水器メーカーもそのことをむしろ宣伝している。

 一部の業務用の浄水器(逆浸透膜)はミネラルを除去して硬水を軟水化するが、機種によってはその後で「飲み水として美味しくするため」にミネラルを再添加するものもあるので注意が必要である。

 エスプレッソはコーヒー豆の量に比べてお湯の量が少ないので、実際には水の違いによる味の違いが気になることは余りない。それでも「おいしい水」や「マシンに優しい水」には気を配りたいものであるが、そのためには、どんな水が欲しいのか、問題意識に合わせてミネラルウォーターや浄水器の選択をすることが大切だと思う。


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