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エッセイ・エスプレッソ


第12話 エスプレッソの豆選び


 エスプレッソ・マシンを買って、自宅で毎日エスプレッソを飲むようになった頃、不満に思ったことがある。コーヒー豆を買いに行くと、大抵の店(典型的にはデパートの地下の豆売場)では「モカ」「キリマンジャロ」といった各種のストレート(単品種)豆や、各種のブレンド豆が売られているのに、エスプレッソ用の深煎りの豆は売場の片隅で細々と売られているだけで、選択の余地がないのである。

 エスプレッソ用にも各種のストレート豆やブレンド豆の選択肢があってよいと思う。欲を言えば「キューバのフレンチ・ロースト」「ハウス・ブレンドのイタリアン・ロースト」というように、生豆の種類と煎り具合の双方を自由に組み合わせて選択できれば理想的である。日本にもごく少数ながら、生豆を選択して煎り具合を指定すれば小1時間後に煎りたてを売ってくれる店がある。しかし、小型ロースターでの短時間焙煎には性能的にも営業的にも限界があり、買う側の観点からも、これらの組み合わせをいろいろ試すことが好きな人より、お店のお薦めを手軽に買う方がよいという人の方が多いこともあり、このような店は極めて例外的である。

 現実には、日本の家庭用コーヒー豆需要の中でエスプレッソ用の豆の需要はわずかなものであるので、売る側の観点からみても、エスプレッソ用の豆の選択肢がほとんどないのは仕方がない。買う側の観点からみても、下手にエスプレッソ用の豆を複数揃えられて在庫の回転が悪くなると古い豆を買わされることになるので、その店お薦めの豆を一種類に絞って売ることの方が良いのかもしれない。問題は、その一種類の豆がどんなものであるかである。

 店頭で「エスプレッソ向け」という豆があった場合、生豆の種類は何なのかと、煎り具合はどうなのかが気になる。エスプレッソ専用に独自のブレンドと煎り加減を工夫したものなのか、単にその店のブレンド豆を少し深煎りにしてみただけなのか。・・・しかし大半の店では何の情報提供もないし、こちらから店員に尋ねるには度胸がいる。自家焙煎の店でなければ店員でも説明できないことが多いだろう。

 そう考えると、現時点でエスプレッソの豆を選ぶには、店頭ではあれこれ考えるよりも、素直にその店がエスプレッソ用に薦める豆を買うことにして、むしろ、どの店で買うかの店選びを重視した方がよさそうである。豆の説明ができる店の方が良いに越したことはないが、たまたま店員が詳しく知らないだけで良質の焙煎業者から仕入れている小売店もあるから、豆の保存管理の良さそうな店であれば試してみる価値はある。もちろん、コーヒーは嗜好品だから、最終的には自分が気に入ったかどうかが一番大切である。

 将来、日本の家庭でエスプレッソを飲む人が相当の割合になれば、どこの店に行ってもエスプレッソ用の豆が何種類も並ぶことになるかもしれない。その日が一日も早く来るためにも、まずは・・・そう、そこのあなた、自宅でもエスプレッソを飲んでみたいと思いませんか?


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