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(前の話より続く) 「そもそも『コーヒーはブラックでしか飲まない』って言う人を周囲が『コーヒー通』と甘やかすからいけないんだよ。」 「まあ、僕も『通』という言葉には抵抗があるけど、要するに『純粋な美味しさを味わうために努力する人』という意味なんじゃないの。よく『そば通』なんて言うじゃない? 昔からそば通は『そばはもりそばで食べる』というけど、『コーヒーはブラックで飲む』というコーヒー通も、似ているんじゃないかなあ。」 「ぜんぜん努力なんてしてないじゃない。『そばはもり』、『コーヒーはブラック』、…考えが硬直してるよ。まあ、僕に言わせれば両者は全然違う意味で硬直してるんだけどね。」 「え、どういうこと?」 「いわゆる『そば通』が『そばの純粋な美味しさ』を味わうんだったら、どうしてみんな麺つゆなんてつけるの? 通だったらそばだけで食べればいいじゃない。」 「おお、それは考えたことがなかったな。でも、そばの美味しさを引き立たせるために、麺つゆや薬味があってもいいんじゃないかなあ。」 「じゃあ、どうして醤油と削り節の麺つゆなの? 昔ね、お世話になったアメリカ人に日本食の食材を送ったことがあるんだよ。そしたら、手紙で返事が来て、『ソバ・ヌードルが一番美味しかった。どのソースが一番合うかと思って家中のソースを試してみたら、アップル・ソース(注)が一番良かった』って言うんだよね。」 (注)すりおろしたリンゴが主体の甘酸っぱいソース。肉料理などに添えられる。 「うげげ。アップル・ソースは勘弁して欲しいなあ。あ、でも、そばにトマトソースが合うという話は聞いたことがあるなあ。」 「そういう工夫をした結果、今の麺つゆが一番そばに合うと思ったのであれば構わないんだけど、いわゆる『そば通』は『そばを味わうならもり』って言う割に、疑問を抱かず麺つゆを使うのは硬直しているよね。」 「まあ、それは、先人が試行錯誤を重ねた結果、日本人には今の麺つゆが一番合うということで定着したんじゃないのかなあ。…で、コーヒー通が別の意味で硬直しているというのは?」 「いわゆる『そば通』は、無意識にせよ、そばの美味しさを引き立たせるために麺つゆは認めているんだよね。コーヒーだって、その美味しさを引き立たせるために、砂糖やミルクやクリームがあるんだけど、『コーヒーはブラック』って言う人は、そばで言うなら『麺つゆもつけない』って言ってる訳だろう? それこそ硬直しているよね。」 「そうか。じゃあ柔軟な君はきっと、砂糖やミルクやクリーム以外にも、さぞかし色々なものをコーヒーに合わせて試してみたんだろうねえ。あんことか、ジャムとか、アップルソースとか…。」 「うげげ。い、いや、まあ、それは、先人が試行錯誤を重ねた結果、コーヒーには砂糖やミルクやクリームが一番合うということで定着したんじゃないのかなあ…。」 (この項終わり)