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エッセイ・エスプレッソ


第5話 辞書エスプレッソ


 エスプレッソ(espresso)というイタリア語に対応する英単語はエクスプレス(express)ですが、アメリカ人は「エクスプレス・コーヒー」とは呼ばずに「エスプレッソ・コーヒー」と呼んでいます。


【イタリア語のエスプレッソ、米語(アメリカ英語)のエスプレッソ】

 まず、伊米辞典で「espresso」を引いてみました。

A.(1)明示された、明白な。(2)特に明示した、特定の。(3)至急の、早い。(4)注文に応じた。(5)表現する。
B.(1)速達便。(2)エスプレッソ・コーヒー。(3)急行列車。
 次に、米伊辞典で「espresso」を引いてみました。
(1)(= espresso coffee)カフェ・エスプレッソ。(2)(= espresso machine)カフェ・エスプレッソ用のマシン。(3)(= espresso bar)カフェ・エスプレッソを供するイタリア風のバール。

 つまり、イタリア語の「espresso」には米語の「express」と同じく様々な意味がありますが、米語の「espresso」には「エスプレッソ・コーヒー」関連の意味しかありません。

 その用語法を受け継いだ日本では、以前からあった「エクスプレス」という外来語と「エスプレッソ」という外来語が全く別個の単語として定着しました。「ストライク」と「ストライキ」の関係に似ていますね。


【エスプレッソ・コーヒーの語源】

 イタリア語のエスプレッソ、すなわち米語のエクスプレスという単語には「特に明示した、特定の」あるいは「注文に応じた」という意味があります。

 現在のエスプレッソ・マシンの原型ができた当時の話です。時間をかけてポット単位でいれる従来のコーヒーとは異なり、短時間で一杯ずついれる新しいマシンとその濃厚なコーヒーが人気を博しました。さて、このコーヒーを何と呼ぼうか。マシンの考案者は考えました。

 「カフェ・エスプレッソ」という名称には「一気にいれたコーヒー」というニュアンスも「あなたのためにいれたコーヒー」というニュアンスもあり、非常に粋なネーミングだと思います。

 当時の考案者の真意を知ることのできる史料が発見されれば尊重しますが、確証がないのであれば、「急行、急速」を意味するという「説」とか「特別に、あなたのために」を意味するという「説」とか論じるのはやめて、「さすがイタリアっ子、粋なネーミングをしたもんだ」と感心していたいと思います。


【エスプレッソはコーヒーのエキス】

 イタリア語のエスプレッソ、米語ではエクスプレス。本来の語源はラテン語の「ex(外へ)premere(押す)」です。英和辞典を引くと「(外部に向けて)表現する」という用法が最初に出てきますが、よく読むと、本来の語源に近い「(果汁などを)絞り出す」という用法も出ています。

 日本語のエキス、英語ではエクストラクト(extract)。本来の語源はラテン語の「ex(外へ)trahere(引く)」です。英和辞典を引くと、本来の語源に近い「抜き取る、取り出す」という用法が最初に出てきますが、「抽出する」という用法も出ています。

 押し出すか、引き出すか。どちらにしても、コーヒーの美味しい成分をお湯の中に溶かし出す点では同じ意味です。日本語で「エスプレッソ・コーヒー」と「コーヒーのエキス」は違う意味ですが、語源的には共通点があるんですね。


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