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エッセイ・エスプレッソ


第4話 抹茶エスプレッソ?

 コーヒーの抽出方法を追求した結果エスプレッソが生まれたように、他の飲料についても先人達の試行錯誤が重ねられてきたと思う。でも、抹茶やココアを高圧短時間で抽出したらどうなるという話は聞いたことがない。エスプレッソマシンにかけたら、どんなドリンクができるのだろうか。…以前から心の中で好奇心をかかえつつ、誰にも言えないままでいた。

 そうしたある日、国内線の機内誌に「抹茶エスプレッソはいかが?」という記事を発見した。ロス郊外でオープンした、シアトル系コーヒーショップ形式のティールーム。普通の緑茶や和菓子の他、抹茶ベースのドリンクが好評らしい。

「メニューは抹茶をエスプレッソマシーンで淹れたお茶エスプレッソ、泡立てたミルクを加えたお茶ラッテ、チョコレートシロップとホイップクリームを混ぜたお茶モカの3種類。値段もスターバックスのカフェラッテなどとほぼ同じ。」
(JAL「ウインズ」2000年6月号 p.23)

 しまった、先を越されてしまった。自分がパイオニアになるはずだったのに…。と思いつつも、二つの疑問が残った。まず、安めの抹茶でもエスプレッソマシン一杯分の分量となると原価が100円を超えるはずだが、採算がとれるのか。また、そもそも抹茶のような微粉をエスプレッソマシンにかけると通常の圧力では足りない筈だが、マシンを特別にチューニングしたのか、あるいは粗挽きの抹茶を使っているのか。…そう考えていると、いてもたってもいられず、結局、抹茶と粉茶を買ってきてポット式マシンとレバーピストン式マシンにかけてみることにした。

 まずは抹茶をごく軽めにタンピング(粉の押しつけ)してセット。結果は、薄い色の液体が少量出てきたのみ。この液体は非常に苦くて渋かった。フィルターを開けてみると、圧力を受けた抹茶はビスケットのように固まり、所々にひびが入っていた。お湯は粉末の間ではなく、ひびの間を通り抜けてしまったらしい。

 そこで今度は、ふわふわしてタンピングしにくい粉茶を精一杯詰め込んでセット。抹茶よりは出るかと思ったが、予想に反して双方のマシンとも一滴も抽出されなかった。フィルターを開けてみると、お湯を吸った粉茶が一杯に膨張してそれ以上お湯を通過させなかった(柔らかいのでひびも生じなかった)らしい。

 そこで今度は粉茶を規定量の半分程度セットした。コーヒー豆の粉でこんな事をすると、お湯がコーヒー豆を通り抜けずに出てしまうが、今度は膨張した粉が適度な圧力を演出したらしく、濃い色の液体が出てきた。レバーピストン式マシンでいれた方には少量ながらクレマ(泡)らしきものも浮かんでいる。しかしその色は抹茶とはほど遠い、お茶が焼けたような茶褐色。お味は…こんな苦くて渋い液体は生まれて初めて! 口に含んだまま洗面所に駆け込んだ。

 これは粉の種類や粗さを試行錯誤して改善できるレベルの問題ではない。コーヒーにしろお茶にしろ、お湯の中に成分を溶かし出す際、湯温と圧力によって溶け出る成分とタイミングが異なり、それは浅煎りと深煎りの豆でも異なるし、煎茶と玉露でも異なるのだが、少なくとも、お茶に圧力をかけても飲めた代物にはならない事はよく分かった。

 改めて機内誌をみると、写真のお茶ラッテやお茶モカの色はまさしく抹茶色。この店のホームページ(http://www.maeda-en.com/rhstore.htm)(英文)をみても「green tea O-cha espresso」としか書かれていない。要するに、普通の緑茶しか知らないアメリカ人に「お茶エスプレッソ」という名前で「抹茶」を出しているようである。

 念のため、このお店に国際電話をかけて確認してみた。事務所の方によると、エスプレッソマシンのスチームで抹茶やミルクを泡立てて作っているとの由。緑茶の魅力を多くのアメリカ人に紹介したいというその姿勢には好感をもったし、もっとこの店の存在は日本国内でも知られてよいと思うが、「抹茶をエスプレッソマシーンで淹れたお茶エスプレッソ」という機内誌の紹介記事は、若干不正確で誤解を招きかねない表現だったと思う。

 それとも、ここまで激しく誤解したのは私だけだろうか…?


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